不妊を理由として離婚はできるの?

コラム

こんにちは。大阪府豊中市の離婚が得意な弁護士の武澤です。

 

タイトルの件で解説します。

 

近年、晩婚化が進んでいる我が国において、不妊治療を行う夫婦が増えています。

不妊治療は大変で、絶対にお子さんが生まれる保証がないことから、精神的、肉体的、金銭的に非常に堪えるものです。

実は、不妊を理由に離婚を考える女性が増えています。

 

では、妻から「赤ちゃんができないから、もう離婚しましょう。」と言われたら、夫は「わかりました。」という必要は発生するのでしょうか。

 

この点について、詳細をお伝えしますね。

 

・そもそも、不妊の原因は夫、妻、それとも両方とも?

先ほども書いたように、不妊治療を進めるカップル、夫婦が増えており、「妊活」という言葉も最近出てきております。

 

不妊の原因については、昔から「卵子の加齢による老化」による女性側の原因とされておりましたが、近年の不妊に関する研究では、「精子の加齢による老化」や「造精機能障害」という精子を作る機能に異常があるため、男性側の原因もあると指摘されており、その割合は半数ということです。

 

この点については、詳しくはお医者さんに伺ってほしいですが、男女ともに原因があると言えます。

 

・不妊が原因で離婚を考えるきっかけ

それでは、不妊を原因とした離婚を考えるきっかけとは何でしょうか。

不妊治療は肉体的、精神的、経済的な負担が非常に大きいため、お互いストレスになってしまい、夫婦間で溝ができてしまうことがあります。

なぜでしょうか。それは、男女間で治療における肉体的負担の違いです。

 

男性は、あまり肉体的負担を感じる治療は少ないとのことですが、女性にとっては相当に痛い、数多くの薬を飲むなどの大きな肉体的負担を強いられるものです。

 

そこで、一生懸命妻が不妊治療を頑張っているのに、実は夫が原因でしたとか、夫は不妊の原因がご自身と分かっていながら、治療を拒否することもあるとのことで、子供が欲しいという考えは一致しているものの、不妊治療に非協力的であることや肉体的負担の違いにより、夫婦間に溝ができるのです。

 

また、夫の両親から「いつ孫が見れるの?」とか、「嫁さんが妊娠しにくい体じゃないの?」というような発言にたいして、夫は何も言わない、妻をサンドバック状態にしたなどの、モラハラともとれる状態にしてしまったということが離婚を考えさせるきっかけになっています。

上記は、妻側が離婚を考えるきっかけでしたが、夫側も離婚を考えるきっかけはあります。

例としては、妻から「あなたが種無しだから!」とか「男の機能を持っていないことを知ってたら、初めから結婚してなかった!」などのモラハラ発言がもとで、夫が離婚を考えることも少なくありません。

 

そして、経済的負担も非常に大きいです。最終的に1000万円程度治療費が発生したケースも少なくないそうで、治療により新たな病気が発覚したり、通院する日程調整も困難になり、仕事を辞めることもあるとのことです。金銭的余裕がなくなる=精神的余裕がなくなりますので、夫婦間で言い争うことが頻発して、離婚に発展すると言えます。

 

・不妊が原因で離婚できるの?

 

では、実際に奥さんから不妊が原因による離婚を申し入れられたとき、ご主人は絶対に受け入れる必要はあるのでしょうか。

なお、夫婦間で離婚に向けた話し合いをして、双方納得できれば、協議離婚として成立しますので、ご主人が離婚をしたくない、考えたくない場合を想定してお伝えします。

 

結論から言いますと、「不妊だけを理由とした離婚を受け入れる必要はない」です。

 

離婚が成立するケースとしては、下記のわずか5つを理由としたものだけです。

今までのブログにも出てきておりますが、民法770条第1項に規定された「法定離婚事由」です。

 

・不貞行為

・悪意の遺棄

・3年以上の生死不明

・強度の精神病に罹り、回復の見込みがないこと

・その他婚姻を継続し難い重大な事由があること

 

上記から、「不妊」は法定離婚事由に記載されておらず、また、不妊だけが原因の場合は「婚姻を継続しがたい重大な事由」には該当しないと考えます。

よって、不妊を理由とした離婚は成立しないと考えます。

ただし、これが原因で不倫したとか、別居してそれが長期間に及んでいるとかになると、法定離婚事由に該当し、離婚が成立することもあり得ますので、ご注意願います。

 

・意外と注視している、「セックスレス」状態

我が国においては、性交渉等男女間の交わりについては、秘め事としてさらけ出すものではないという風潮が強いですが、実は、離婚調停や離婚裁判においては、「セックスレス夫婦」だと、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があること」と認定されることがままあります。意外かもしれませんが、性交渉の有無が婚姻関係の維持・破綻を見極める要素となっているのです。離婚調停申し立て時に作成する書類にも、離婚する理由に「性的不調和」という選択肢があります。

もし、夫が不妊を理由として、妻と性交渉を長期間していない、拒否しているとなれば、「婚姻を継続し難い重大な事由」を理由に、離婚が成立する可能性があります。

 

・不妊が原因のDVやモラルハラスメント(モラハラ)

近年、DVやモラハラによる離婚理由が増えておりますが、これは男性加害者、女性被害者だけではありません。その逆も然りです。

不妊治療は、先述の通り、肉体的、精神的、金銭的負担が非常に大きく、夫婦間で過大なストレスを抱えることになります。

これがきっかけに、夫が妻に対して暴力を振るったり暴言を吐いたりしてしまうと、離婚が成立しやすくなります。

また、妻が夫に「あなたとはもう生活できない!」「種無し男なんて生きてる価値無い!」などの暴言を吐いたり身体に暴力を振るうと、夫から「婚姻を継続し難い重大な事由」を理由に、離婚を申し立てられ、離婚が成立する可能性があります。

 

・夫が原因の不妊により離婚した場合の慰謝料請求

不妊だけが原因で離婚が成立することが難しいように、慰謝料請求も簡単には認められませんが、セックスレス状態が相当な期間である、不倫した、DV、モラハラしたとなると、法定離婚事由に当てはまり、慰謝料請求は認められることがあります。

また、これについては、夫側、妻側どちらも当てはまります。

妻側も、セックスレス状態が相当な期間である、不倫した、DV、モラハラしたとなると、夫は慰謝料請求が可能となります。

 

よって、普段からご夫婦でしっかりとコミュニケーションを取ったり、ご苦労を分かち合うことで信頼関係を維持することが肝要と考えます。

 

・夫側で不妊が原因での離婚を回避するには?

夫が不貞行為をしたとか、暴力を振るったとかでなければ、不妊だけを理由とした離婚は難しいので、しっかりと妻に「離婚をしたくない、一緒にいたい」というお気持ちを伝えて、分かり合えるような関係性を構築するように努めて下さい。

まずは話し合いです。

また、法的な面でも、「離婚届の不受理申出書」を提出しておくことで、勝手に離婚されないための手段を取っておくことです。

 

・まとめ

不妊治療を進めているご夫婦は近年非常に多くなっており、まだまだ日本は「夫婦には子供がいて当たり前」という考え方が根強いです。

これを負担に感じることなく、円満に夫婦関係を維持できることがベストですが、不妊が原因で夫婦間のこじれが発生しているケースも数多くあると考えます。

離婚されたくないとお考えの方は、一度私を含めた、離婚問題が得意な弁護士に相談いただくことをお薦めします。

 

私は、毎日、何らかの形で離婚に関する事柄を取り扱っております。

 

もし、離婚のことでお困りのことがありましたら、まずは下記よりお電話、メールを下さい。

 

心配事を少しでも軽くできるように、お話をお伺いします。

 

※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

 

※この記事は、読んでいただいている皆様にとって分かりやすい言葉を使って、記載しております。

 

※本記事を利用して、ご自身で対処する場合は、自己責任で行ってください。