離婚と会社取締役の解任を同時に言い渡された!
コラムこんにちは。大阪府豊中市の離婚が得意な弁護士の武澤です。
タイトルの件で解説します。
ご主人もしくは奥さんがお勤めの経験を生かしたり、自身で長年個人事業主を継続してきたなかで、顧問税理士さんから「そろそろ法人成りでもお考えになったほうがいい時期です。」と言われて、株式会社や合同会社を設立して、事業拡大を目指す経営者さんはたくさんいらっしゃいます。
そして、配偶者さんを取締役に登記していることが多いです。
もちろん、夫婦二人三脚で経営すること自体は、力の源泉となり、さらに事業拡大や経営基盤を強化することにつながるので、とても良いことだと思います。
しかしながら、夫婦関係が悪化したり、離婚となると、会社の取締役の問題は別問題とはいえ、どうしても公私混同しがちです。
夫婦関係がギクシャクして経営も上手くいかなくなったり、お互い精神的にしんどくなって、「離婚するし、会社の取締役も辞めてもらうよ。」と一方的に言われることはままあります。
そこで、今回は、社長である夫から、取締役である妻に、離婚を理由に取締役を辞めるように言われたことに対して、知っておくべきことをお伝えします。
・そもそも、離婚を理由に取締役を辞めさせられるの?
社長である夫から離婚と同時に取締役を辞めてもらうと言われたとしたら、恐らく、お互いの役員報酬で生活を支えていることが想定できますので、妻は、生活も仕事も奪われることになります。
では、取締役の妻は素直にこれらの要求を呑む必要がありますでしょうか?
答えはNOです。
「離婚は離婚、取締役の辞任や解任と、これは別のものとして取り扱いましょう。」
と冷静にお伝えすればOKです。
なぜなら、離婚は夫婦関係を終了する法的手続きですが、取締役の辞任や解任は、経営陣として参加している会社への委任関係を強制的に終了させられることなので、全く立場が異なることです。
社長である夫の発言は、まさしく公私混同をしているということになります。
また、取締役の解任をするには、株主総会を開き、議事を諮った結果、正当な理由があって解任するという手続きが必要です。
日本の会社の99%が中小オーナー企業ですから、株主総会は開けるかもしれませんが、「こいつとは離婚するから、取締役をクビにする。」という理由は原則通らないです。
通常、解任に値する正当な理由は、下記のケースが考えられます。
・会社のお金を使い込んだり、背任などの法律違反の行為があった場合
・認知症や精神病を患うなど、心身の故障があって仕事を続けられない場合
・経営判断を失敗して、会社に多大の損失を与えた場合
上記のような理由がないのに、解任を言い渡されるようであれば、取締役である妻は、会社に対し損害賠償請求が可能です。
「夫婦関係の破綻が理由による取締役の解任」については、損害賠償請求が出来る可能性があることを抑えておいてください。
また、解任でなく、辞任であっても、それを受け入れる必要はありません。
しっかりと役員報酬を受け取れる体制を確保しておきましょう。
「どうしても辞めたい!」と思ったときは、辞任を受け入れても構いませんが、役員退職金等の要求も念頭に置いておくと良いでしょう。
特に、ご自身の営業手腕や人脈で業務拡大に繋がっている場合は、多大な貢献があったとして、退職金を正当にもらえるチャンスがあります。この辺りについては、税理士さんと相談していただけたら幸いです。
・取締役の妻が受け取れる可能性のある財産分与
夫婦で会社を経営している場合は、財産分与でもめるケースが多々あります。
なぜなら、財産分与の対象となる資産額が高額であることが多いので、どれくらい分与してもらえるかによって、離婚後の生活に大きく左右されるからです。
これから、注意点等をお伝えします。
1.財産分与の範囲
通常、財産分与の対象になる財産は、下記のような夫婦の個人名義の財産で、夫婦半分ずつに分けるのが原則です。会社名義の財産は、個人とは別人格として、財産分与の対象外とされますが、役員貸付金や株式の評価を通じて、実質的に会社名義の財産を夫婦共有財産として財産分与の対象であると主張することは可能です。
・夫婦それぞれの名義の預貯金
・不動産
・車
・株式、有価証券、保険などの金融資産
2.注意点等
・資産隠し
パートナーが経営者ですと、自分の財産=会社の財産と捉えがちになり、かつ高額になるような場合、会社に名義を移したり、タンス預金にしたりと、資産隠しに走る傾向があります。よって、ご自身としては、パートナーがどれだけ財産を持っているのかを確実に洗い出し、受け取れる財産の確定作業を進めるべきです。
・株式について
パートナーが経営する会社については、基本的には100%オーナーもしくは夫婦共有であることが多いです。
なお、結婚後に設立した会社であれば、その株式は財産分与の対象になります。
しかし、実際に分与となりますと、株式が分散されることで、経営のかじ取りがうまくいかなくなりますし、受け取る側も、非公開株式なので換金が難しく、また、今後の経営にタッチすることはないでしょうから、利益があまりないです。
よって、株式については、金銭的に解決することが多いです。
なお、その評価方法については、税理士さんに関与していただくことになります。
・生命保険金
経営者は、老後の生活を保障する退職金に相当するものとして、下記金融商品を契約しているパターンが多いです。
・退職を満期とする生命保険
・小規模企業共済保険
・個人年金保険
これらの解約返戻金や払込保険料についても財産分与の対象になります。
キチンと調査して、半額分を請求できるようにしましょう。
・役員報酬
離婚後の生活を支えるのに非常に重要なものです。
先ほどもお伝えしたように、離婚と取締役辞任・解任は全くの別物です。
よって、離婚後も取締役として在籍し、役員報酬を受け取る権利はあります。
ご自身が非常勤取締役であっても、月に数万円受け取れるようになっていることが多いでしょうから、精神的な安定につながります。
ただ、夫婦関係が破綻した状態で取締役に在籍するのも精神的にしんどいかと思いますので、取締役を辞任して、役員退職金等を受け取る交渉をすることも一考です。
・まとめ
今回のケースは夫が社長、妻が取締役としましたが、逆のパターンもあるかと思います。
いずれにせよ、パートナーが会社経営者ですと、財産分与等離婚手続きや交渉がうまくいかないことが多々あります。そして、もらえるはずの役員報酬がゼロになることで、離婚後の生活がままならないという事態に陥る可能性があります。
離婚をお考えの取締役の方は、一度私を含めた、離婚専門弁護士に相談いただくことをお薦めします。
私は、毎日、何らかの形で離婚に関する事柄を取り扱っております。
もし、離婚のことでお困りのことがありましたら、まずは下記よりお電話、メールを下さい。
心配事を少しでも軽くできるように、お話をお伺いします。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。
※この記事は、読んでいただいている皆様にとって分かりやすい言葉を使って、記載しております。
※本記事を利用して、ご自身で対処する場合は、自己責任で行ってください。